「新卒ですが、介護の相談うけたまわります」は、メゾン文庫より出版されているいぬじゅんさんの小説です。

- 作者: いぬじゅん,uki
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2018/06/09
- メディア: 文庫
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特別養護老人ホームの生活相談員として応募したはずが、介護保険”外”の相談を受ける事務所に配属されてしまうという、一風変わった生活相談員の仕事振りを描く、お仕事小説です。
ネタバレありの感想を書いていきます。
目次
介護保険外相談所クルクマ
主人公の小飼里枝(おがいりえ)は、特別養護老人ホームの生活相談員の内定を貰い、新社会人としてのキャリアをスタートしました。
しかしながら、施設長室で告げられた内定先は、意外にも「介護保険外相談所」だったのです。「やることは同じで、相談員なんだから良いでしょ!」・・・そのように言いくるめられてしまった小飼は、介護保険外相談所の事務所に向かいます。
そこにいたのは「せつ子」と名乗る女性でした。クッキーを食べながら「介護保険外相談所クルクマ」について説明を受ける小飼ですが、話を聞く限り、そこはまるで「なんでも屋」のような事務所でした。
そして、後ほど登場するぶっきらぼうな所長の早馬海吾と共に、小飼は相談員を始めます。
聴くことが仕事である
相談員の仕事で最も重要なことは、何よりも相談内容を聴くことです。「依頼主が本当に望んでいることは何か?」それを引き出さなければなりません。
本書の序盤で、早馬は傾聴の重要さを説いています。まるで探偵のような傾聴で、見方を変えればミステリー作品であると言えなくもありません。まさに探偵と依頼主の関係ですが、違いは相談内容が「介護」や「高齢者」に関連する相談であるという事です。
バラエティに富んだ依頼内容
本書の魅力は、なんと言ってもバラエティ豊かな依頼主の相談内容にあります。
- 子供が介護業界に進みたいと言うのを止めてほしい
- 一人だけ区画整理に反対している高齢者がいる。彼女を区画整理に同意させて欲しい
- 退職者が続出してしまって、人手不足となってしまった現状をどうにかして欲しい。
区画整理の話は、単純に考えれば行政の管轄ですし、子供を介護業界に進ませないで欲しいという依頼は、介護の相談員を目指した小飼にとっては、あまりにも酷な依頼です。
依頼内容がいつも突拍子もないので、毎回笑ってしまいました。
クルクマの由来
クルクマとは、花の名前です。「あなたの姿に酔いしれる」という花言葉があります。
ただ、介護保険外相談所クルクマという名前である訳は、花言葉が理由ではありません。本書の終盤に答えが書いてありますので、そこは読んでからのお楽しみです!
不器用な所長の早馬海吾
本書のもう一つの魅力は、所長である早馬海吾のキャラクター性です。彼は物静かな性格ではないのですが、性格はとても不器用です。
小飼は早馬を観察することで、微妙な気分の変化を察知することに成功します。
また、彼は多くを小飼に語りません。そのため、数少ないアドバイスから、小飼は考え抜いて答えを出し、前に進んでいきます。
早馬海吾の教育方針は「可愛い子には旅をさせよ」を目指しているのでしょうが、やり方が微妙に不器用です。そのもどかしさがまた、本書の魅力であると感じました。
さいごに
介護そのものではなく、介護を受けられない(=受けたくない)人やその周りを描いた作品ですので、少し本書のタイトルには違和感があります。
ただ、都心から進出した給料の高いショッピングストアに人が取られてしまい、介護士がどんどん退職してしまうといった、割とリアルな介護業界の現状も映し出しています。他人事ではありません。
私は、大学生の頃に一時期ボランティアをやっていたことがありますが、介護の仕事はかなりの体力仕事です。坂道では車椅子は後ろ向きにして、後ろ歩きのようにして降りるといった流儀から、一人でお風呂に入れない人の介助のやり方まで、覚えることもたくさんありました。
介護はとてもやりがいのある仕事ではあるのですが「適切な休み、そして苦労とやりがいに見合う給料」が必要です。その辺りの警告を、筆者は本書を通して発しているのかもしれませんね。
おまけ
本記事に対して、なんと著者のいぬじゅん様よりお返事をいただきました。拙い感想ではありますが、読んでいただけてありがたい限りです(_ _)
フォロー外から失礼します
— いぬじゅん (@inujun2543) 2018年6月24日
あまりにうれしい感想に、どうしてもお礼を伝えたくてコメントさせてもらいました
何度も何度も読み返して、感動をいただいています
本当にありがとうございます

- 作者: いぬじゅん,uki
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2018/06/09
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