【書評】羊と鋼の森 〜ピアノ調律師が奏でる演奏の舞台裏の物語〜【ネタバレ】

「宮下 奈都」さんの「羊と鋼の森」を読みました。

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)

終始、独特なタッチで描かれている作品で、どこか不思議な雰囲気を感じる作品です。感想を書いていきます。

ピアノ調律師とは?

ピアノ調律師とは、ピアノを調律するお仕事に携わっている方の事を言います。恥ずかしながら、私はこの本を読むまではピアノ調律師という職種を知りませんでした。

当然ですが、ピアニストがどんなに上手く演奏したとしても、音が合わなければ良い演奏にはなりません。もちろん、ピアニストにもそれぞれ好みがあります。本書でも、依頼者に対して要望を聞くようなシーンが何回も登場します。

本書は、数々のピアノ調律師の方や、作曲家への聞き取りやインタビューを経て完成した作品であり、ピアノ調律のシーンは詳細に描かれています。そのため、フィクションではありますが、読者も自分がまるでピアノ調律師になったかのように読み進めることができます。

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独特な感覚を持つ主人公

主人公である戸村は、自然が豊富な田舎で育ちました。これは、悪く言ってしまえば世間知らずであり、マイペースであるとも言えます。

本作は、調律がうまくいかない戸村の葛藤を中心に描かれています。この葛藤は、もちろん調律の技術が不足している面もありますが、メインは感性の違いです。

  • 依頼主であるお客の要望にうまく応える事が出来ず、調律のやり直しや担当替えを要求される
  • 先輩や周りの調律師との感性の違いに戸惑い、自分のやり方が正しいのか自信が持てなくなる

数々の問題を抱えながら、戸村はピアノ調律師としての日々を過ごします。最終的に戸村は、自分の考えを自ら受け入れ、さらにその上を乗り越えていこうと決意します。

独特な感性で音を表現する

本作は、ピアノおよびピアノが奏でる音を、まるで森の中にいるカササギのように表現します。

主人公である戸村の表現力であり、また「宮下 奈都」さんの描く表現に私は没頭しました。

本書内の一説で、ピアノ調律で得た経験を文字に書き留めることの大切さを感じるシーンがありますが、本書は音を文章で表現することに見事に成功しています。

まるで、森のなかにピアノがあり、あたかもそのピアノを「和音」が奏でているように感じられるのです。

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ピアノを諦める者と続ける者

本作は、ただ単に不思議な作品ではありません。未来への光が描かれている事もあれば、挫折が描かれているようなシーンもあります。

  • ピアニストを目指していたけれど、調律師になる事を受け入れた秋野
  • 難病によってピアノが引けなくなり、調律師として姉の和音を支えることを決意する由仁

一方で、和音は持ち前の演奏力を開花して、ピアニストへの道を歩き始めます。不思議な雰囲気に包まれがちな本作ですが、かなり大胆にそれぞれの選択を表現しています。

本作を読み進めていると、主人公の葛藤だけに注目が集まりがちですが、それぞれの人々が選んだ選択肢にこそ、私は本作の真髄があると感じています。

周りに支えられて成長する主人公

本書のキーキャラクターが「和音」であることは疑いようもありません。主人公の原動力は、和音のピアノ演奏を輝かせることにあったのです。

また、先輩調律師である「板鳥」「秋野」「柳」もまた、それぞれに違った考え方を持っています。彼らの様々な考え方にも触れながら、主人公は成長していくのですが、それは勿論、努力があってこその話です。

  • 机を毎日拭く
  • ピアノ調律の練習を毎日行なう
  • 調律道具を毎日手入れする

上記はさらっと描かれていますが、これははっきり言って大変なことです。主人公の独特な感性や表現に目が行きがちですが、私は主人公の弛まない努力にこそ感動を覚えました。

ピアノ調律師、感性だけでどうにかなるような仕事では決してありません。その下地としての勉強であり、努力は絶対に必要です。

さいごに

本作は、ピアノ調律師が奏でる、演奏の舞台裏の物語でした。 まるで森の中でピアノを演奏しているような、音に対する表現が独特です。

独特で不思議なタッチの表現に包まれがちですが、主人公に関わる周辺人物「秋野」「由仁」「和音」などが、自らにくだした決断はかなり大胆です。

私は、ピアノ調律師という仕事を通して、人間の心を描いた作品が本作であると感じました。

おまけ:映画化企画進行中

本作は、映画化が決定しています。映像化によって、本書に音がつくことになります。映画版が楽しみで仕方がありません。本書の独特な雰囲気は、どのように映像化されるのでしょうか?

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主演は「四月は君の嘘」でも主人公役を演じた「山﨑 賢人」さんですので、ピアノ映画がはじめてではありません。実写版の「四月は君の嘘」は賛否両論こそあったものの、私はとても大好きな作品です。

期待しております!

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)