このすみノート

Webエンジニアが技術や趣味を書くブログです。

頭文字D(イニシャルD)に学ぶ成長とリーダーシップ論

以前KPC(コンビニコミック)と呼ばれる講談社のレーベルで、頭文字Dが発売していました。 隔週の発売で毎号読んでいたのですが、これがまたおもしろいです。

ふと疑問に思ったのですが、頭文字Dにおける主人公の藤原拓海の成長には、興味深い点がたくさんあります。 少し考察してみようと思い、記事にしてみることにしました。

高橋涼介の「リーダーとしてのあり方講座」

藤原拓海の成長を支える主な存在は、父である藤原文太と、赤城レッドサンズおよびプロジェクトDのリーダーである高橋涼介です。

高橋涼介の「リーダーとしてのあり方講座」というページがあります。 とても興味深い内容で、ここで主要なリーダーシップ論を学ぶことができます。

  1. 相手に考えさせることで成長させる
  2. 指示は明確に
  3. すべてを見通したうえでの発言
  4. 重要なことは重要であると念押しする
  5. 相手を信頼する
  6. メンバーを鼓舞する
  7. 指示は明確に (2)
  8. 必要に応じて、手持ちのデータと経験で即断する
  9. 相手のレベルに合わせる
  10. リスクを認識する
  11. 敵を知り己を知る
  12. よくやったときは心から褒める

引用1: 高橋涼介の「リーダーとしてのあり方講座」 その1 | 頭文字Dな日々

引用2: 高橋涼介の「リーダーとしてのあり方講座」 その2 | 頭文字Dな日々

本記事には見出しだけ引用しましたが、詳細はぜひとも記事を読んでいただければと!

藤原拓海の成長論

水をこぼしてはならない制約の上での成長

藤原拓海は早朝に毎日、秋名山を往復して豆腐の配達を行ないます。 ここで文太は拓海に「水をこぼしてはならない」という制約を加えます。

水をこぼしてはならないという制約が加わることで、繊細なハンドルさばきが要求されます。 しかも水の量は日に日に増えていき、難易度が上がっていくのです。

あえて「水をこぼしてはならない」という制約を加えることで、藤原拓海は加速度的なテクニックの向上を成し遂げたのです。 制約があることによって、そのルール内でどう戦うのかを考え、工夫する力が身につきます。

ライバル(高橋啓介)としのぎを削ることによる成長

藤原拓海のライバルといえば、拓海が最初に戦うこととなる赤城レッドサンズの高橋啓介です。 のちに同じチームとしてともに戦うことになりますが、重要なのは高橋啓介と藤原拓海がともに公道最速を目指して戦っていることです。

成長を成し遂げるためには、実力の近しいライバルを身の回りに置くことが重要であるとわかります。 なぜ近い実力であることが重要かと言いますと、あまりに遠すぎる存在では身近な目標にならないからです。

羽生結弦さんよりもフィギュアスケートが下手で落ち込む人はほとんどいないでしょうが、同期の出世に敏感な人はたくさんいます。 ポケットモンスターでもライバルの存在は描かれますが、切磋琢磨できる身近なライバルの存在は重要なのです。

秋名山から飛び出し殻を破るという決断

拓海が成長することを決定づけたのは、秋名山から飛び出したことにあると言えます。 秋名山に留まらず、大海へと繰り出したのです。

「井の中の蛙大海を知らず」ということわざにあるように、外へ飛び出せば猛者がたくさんいます。 猛者としのぎを削って揉まれることにより、拓海の成長は加速しました。

・・・ではなぜ拓海が秋名山を飛び出す決意を固めたといえば、やはり高橋啓介と高橋涼介の存在が大きいです。 本気で公道レースをやっている人たちを目の当たりにすることで、拓海はその世界に飛び込むことを決意したと言えます。

私がITエンジニアなのでエンジニア風に言うならば、ミートアップやカンファレンスに参加することでモチベーションの高いエンジニアと触れ合い、それに刺激され加速度的にモチベーションが向上した状態と言えるかもしれません。

あえてFRから4WDのインプレッサに乗り換える

ハチロクを乗りこなす藤原拓海ですが、途中から文太が中古で購入したインプレッサを使い始めます。 文太の指示により豆腐の配達は、ハチロクとインプレッサを交互(1日おき)に使うことになりました。

文太の狙いはあえてインプレッサを使うことで、ハチロクという車を客観的に評価させることにあります。 普段自分が乗っている車の特性や弱点が、あえて他の車に乗せることで比較対象となり見えてきます。

またこの頃の拓海の敵は、4WDも増えてきました。 敵が使っている車にあえて自分から乗ることで、4WDの弱点を探そうというわけです。

他の峠では同じ戦いを繰り返さない

秋名山では側溝を使い、いろは坂では落葉に助けられ、箱根では濃い霧(これは啓介)を活用します。 これは言ってしまえばその場に最適化した戦い方であり、ステージ毎に合わせた戦略を考えるからこそできる裏技です。

同じ戦い方は繰り返さないからこそ、毎回戦略を考え、それによってアドリブや思考力が磨かれます。 逆に言ってしまえば、いつまで経っても同じ戦い方を繰り返していると成長はないとも言えます。

あえてタコメーターのパワーを封印する

故障したハチロクに文太は高回転型エンジンを搭載します。 しかしここからが、拓海の苦労の始まりでした。 せっかく高回転のエンジンを搭載したと言うのに、「むしろパワーが出ていないような気がする」と漏らすほどだったのです。

dic.pixiv.net

原因は高回転型エンジンを活用できるセッティングに、ハチロクがなっていなかったことです。 この一件により拓海は、車のチューニングやセッティングがいかに重要であるかを理解することになります。

知識とテクニックが融合することで、拓海はますます強くなります。 この成長は文太が、あえてハチロクを完璧な状態まで仕上げなかったことによって成し遂げられました。

自分ですべてをやらずに、相手が創意工夫し考える余地を残すことが重要であるとわかります。

精神的な支えの大切さ

前半では同じ高校の茂木なつきが、後半ではプロゴルファーを目指している上原美佳が拓海の精神的な支えになります。 レースの最中は車の中に一人であり孤独なので、心の支えは重要です。

それはハチロク対決の乾信司が、佐藤真子や母親のことを思い浮かべながら試合中に戦っていたことからもわかります。

さいごに

頭文字Dはただの公道レース漫画ではありません。 成長と発見にあふれています。

普段の読書も考察しながら読むと、また違った楽しみ方が生まれてきます。 頭文字Dおもしろいですよっ!

この内容でどこかでLTやりたいです。

頭文字D 超合本版(1) (ヤングマガジンコミックス)

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武田鉄矢氏が語る、この世界の片隅にの魅力 今朝の三枚おろし

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武田鉄矢・今朝の三枚おろしにて、映画「この世界の片隅に」の特集がありました。なんと、最近TSUTAYAにハマっている武田鉄矢さんが、自ら鑑賞して自ら語る会なのです!

私は、自他ともに認める「この世界の片隅に」のファンなのですが、丁寧に細かく語っているので、朝の通勤でニヤケが止まりませんでした。

本記事は、今朝の三枚おろしで武田鉄矢氏が語った魅力を、ダイジェスト形式でお届けできればと思っております。

目次

一週目

メッセージ性を全面に押し出さない

本作のジャンルは、広島の原爆を描いた作品であり、反戦や平和への願いが込められていると、氏は語ります。

そこで武田鉄矢氏が感動していたのは、メッセージ性を全面に押し出さないという巧みさです。

背中に木箱を押しつけるという細かさ

本作の冒頭で、すずさんは船着き場の石垣に押し付けて、木箱を背負っています。氏はその光景を見て、背中で木箱を背負うために、電信柱に木箱を押し付けているような過去の記憶が蘇りました。

そういった細かい描写の数々に氏は魅せられ、少しずつ「この世界の片隅に」の世界に引き込まれていきました。

原爆で燃える前の広島の光景

広島の風景は。とても綺麗です。すずがすれ違う人たちは、普通に広島の街を歩いています。

原爆で燃える前の広島は、こんなにも美しい光景だったのかと、氏は語ります。

アレと思った点

バケモノと出会った時に、すずはバケモノが背負っているカゴに入れられてしまいます。そのカゴの中で出会った青年は、誰だったのでしょうか?

氏は、カゴの中で出会った青年が将来の許嫁であると語ります(注釈:北條周作のことです)。北條周作は、カゴの中ですずを見初めました。

結婚という重大な決断にもかかわらず、すずは「さてさて、困ったねぇ」と可愛く首をかしげながら、嫁に嫁いでいきます。実に平凡な結婚生活が、ここから始まるのです。

水原哲が初恋相手

氏は、水原哲がすずの初恋の相手だったと語ります。すずは、映画の中で見初めた人がやってきたと言われた時に、幼馴染の「水原哲」とすれ違っています。

  • (すず)あんたと思うたんよ
  • (哲)この慌てものが(少し怒り気味に)
  • (すず)あんたじゃなかったのかい

嫁ぎ先が期待とは違ったすずですが、着物を一丁持って、口紅を少しだけ塗って、椿の花が一輪のシーンに、氏は切なさを感じました。

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嫁ぎ先の呉へ向かうすず

呉へ向かうすずは、歩きと鉄道を乗り継いで、北条家のある呉へと向かいます。和服にもんぺの姿のすずを観て、氏はジーンと来ました。

見初めた人は、北条周作という海軍に勤める青年です。北條サンの体調が思わしくないため、女手が必要であるという理由もあったようです。

すずさん、傘は持ってきたかね?

すずのおばあさんは、結婚前に「傘は必ず持っていけ」とすずに伝えます。

なんと、傘を広げて見せる行動は、結婚がOKであるという地方の合図だったのです。映画の中では、この辺りのくだりが詳しく語られる事はありませんでした。

戦時下の暮らし

戦時下のすずの暮らしは、細かく描かれています。白米に芋を大量に混ぜたり、たんぽぽの葉、菘(すずな)、蘿蔔(すずしろ)、そして梅干しの種まで、ダシに使います。

ひたひたと日常が描かれるシーンに、氏は切なさを感じました。アニメは淡々と描きますが、氏はどんどんと吸い込まれていきます。

戦争の足音は、たった一枚のスケッチで憲兵に捕まるくらいに、刻々と近づいていました。

この世界の片隅には人形浄瑠璃である

私達は、何故すずさんに魅了されるのでしょうか?氏は、実際の人間が演じるよりも、アニメだからこそ可能であると語ります。

生身の人間が演じるよりも、手で操った人形のほうが感情を伝えられる、人形浄瑠璃という伝統芸能があります。氏は、この世界の片隅には人形浄瑠璃のような魅力があると感じました。

人形浄瑠璃が、人間の悲劇や苦悩を描く傑作を多く持つのは、人形が人間を演じているからであり、人形ゆえに悲劇を怯むことなく悲劇を凝視できるのです。この世界の片隅にもまた、アニメゆえに凝視できたのだと氏は語ります。

二週目

クオリティの高さに圧倒される

「この世界の片隅に」を鑑賞し、感動した武田鉄矢氏は、今朝の三枚おろしで2週に渡って放送することを決意します。

特に私は、水谷加奈さんの「世界中で放送されている」という発言に対して、素直に喜んでいるくだりの部分が、とても大好きです。

戦争は突然やってくる

すずの暮らしを淡々と描いていく本作ですが、中盤からは、呉の街が米軍の攻撃目標となってしまいます。

・・・なんと、のどかだった風景が、戦場と化してしまうのです。

米軍の艦載機は、高射砲の外れ弾の煙を避けるようにして、すずの裏山までやってきます。怖い思いをしたすずですが、呉軍港に投下された爆弾で浮かびあがった魚を、塩焼きにして食べるといった、たくましさも見せます。

細かい描写

物語が昭和20年8月に近づくにつれて、広島の隣町、呉で物語が進んでいることを、氏は実感します。

氏は、本作の「昭和20年4月以降の描写が、実に細かい」と語ります。

描写の細かさは「爆撃機の空襲によって、干していた洗濯物がすすで汚れる」といったシーンに、あらわれています。

広島に帰らないでほしい

周作がいなくなっても、嫁として呉の家を守り続けるすずですが、呉は軍港があるため、何度も空襲に襲われてしまいます。

そのため、すずは広島の実家から「早く実家に帰ってこい」と言われています。

しかしながら、広島に原爆が投下される事実を知っている氏は「頼むから実家に帰らないでくれ」という、悲痛な心の叫びをあげます。

叫ばない悲しみこそ人形浄瑠璃である

防空壕で爆撃に耐えたすずが、表に出ると、そこにはやかんを持った主婦が立っていました。その主婦は、さっきまであったはずの家の残骸を、じっと見つめています。

氏は、「後ろ姿の主婦の背中の震え、実に悲しみがリアルである」と語ります。叫ぶよりも、叫ばない声のほうが悲しいのです。

人形浄瑠璃の巧みさが、ひたひたとこの辺りから表れていると、氏は実感します。

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全身から声を出すのんさん

米軍の敵機から放たれた焼夷弾は、ついにはすずの家を襲います。すずは、必死に火を消すため、片手のない身体でのたうち回ります。

氏は「この時の声が只者ではない」と語ります。声の出方が声帯ではなく、足から指の先まで、全てを使って声を出しているのです。胸を打つ声に感動した氏ですが、その声優が、のん(能年玲奈)さんである事を知りました。

「この子はうまい!」氏は、女優の本領を発揮して役に憑依するのんさんに、ただただ感動を覚えました。

床下に隠したさつまいも

氏は、本作が「空襲の悲惨さを、実にのどかに語っていく」作品であると語ります。

「床下に隠したさつまいもが綺麗に焼けたけぇ。食べなさい」氏は、この一言に突っ伏して泣きたくなるような感情を覚えました。そして、この辺りからは、加奈さんも一緒になって泣き始めます。

迫真の演技

サギが舞い降りるシーン、すずは、必死にサギを逃がそうとします。しかし、飛び立ったサギと入れ違いに、なんと米艦載機がやってきました。

戦闘機に狙われるすずですが、広島に帰ったはずの亭主に救われ、なんとか危険を回避します。しかし、この時すずは、広島に帰ることを決意しました。

「わたしゃ実家に帰るんじゃー」すずの悲痛の叫びです。のんさんの迫真の演技であると、氏は感じました。

見つめ合いこそ人形浄瑠璃

広島に原爆が落とされる日、すずは広島へと帰る準備をしていました。この時、すずは、晴美のお母さんで周作の姉である黒村径子(くろむらけいこ)と、無事に仲直りを果たします。

見つめ合う二人、氏は「この見つめ合いこそ人形浄瑠璃である」と語ります。

わらじに泣く加奈さん

広島の街は焼けただれてしまい、まともに歩けるような状態ではありません。呉の人々は、靴の底が焼けないように、わらじ作りを始めます。

すずは、片手でも懸命にわらじを編みます。もうこの段階では、涙が止まりません。感動する加奈さん、思わず泣き出してしまいます。

昭和天皇が終戦を告げる頃には、出演者が全員が泣いているような状態でした。

かぼちゃの花

昭和天皇の敗北を告げる声を聞いたすずは、段々畑で泣きじゃくります。

側では、かぼちゃの花が綺麗に咲いてました。こういうシーンも忘れがたいと、氏は語ります。

見事な終わり方

本作は、突然別の物語が入り込んできます。原爆に襲われた、親子の物語です。

母親を失った子供は、一人路頭を彷徨っています。おにぎりをきっかけにして、子供と出会ったすずは、呉の家まで連れて行くことを決意します。連れ帰えった子供には、死んだ晴美の服がぴったりでした。

本作は、ここで終演を迎えます。これは実に巧みであると、氏は感じました。日本の伝統文化である人形浄瑠璃のような、アニメにはこういう魅せ方があったのです。

麦の穂のような人たち

阿川弘之さんのエッセイに、氏は感銘を受けました。

戦争を終えて広島に戻った阿川青年は、焼け野原の広島に絶望します。失意に広島を歩く阿川青年ですが、未来を諦めかけたその時、焼け野原に伸びる一本の麦の穂を見かけます。

阿川青年は、焼け野原に立派に伸びる麦の穂を見て、日本の未来は大丈夫だと確信しました。

人形浄瑠璃を通し、麦一本の想いを描いた作品こそ、この世界の片隅にある想いではないでしょうか?

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さいごに

北條周作の職業を、海軍工廠に勤める父と勘違いしていたり、哲が帰艦した艦を巡洋艦秋月と発言していたり(注釈:正解は青葉)と、細かな間違いこそありました。

しかしながら、熱心かつ情熱的に「この世界の片隅に」の魅力を語る武田鉄矢氏の姿に、私はとても感動を覚えました。