【感想】ペンギンが空を飛んだ日 Suicaというものづくりにかける想い

交通新聞社新書という新書をご存じでしょうか?その名の通り、鉄道やバスを始めとした、交通に関する新書を発行するレーベルです。

新書 - 交通新聞社

さて、交通新聞社新書から刊行されている新書は、主に鉄道ファンに向けた本が多いのですが、その中で「ペンギンが空を飛んだ日」は、万人にオススメできる新書です。

本の内容は「Suicaの開発物語」です。いわゆる評論家が書いたような本ではなく、まさに開発の先導指揮を取った「椎橋章夫」さんによって執筆されています。

とても興味あふれる良書ですので、紹介していきます。

Suicaの凄いところ

普段、Suicaをお使いでない方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単にSuicaを紹介いたします。

全国で相互利用できる乗車券

まず大前提として、Suicaは鉄道に乗車するためのICカードです。JR東日本が発行していますが、関東圏にお住まいでない方や、JRにあまり乗車されない方ですと、もしかしたらお持ちではないかもしれません。

しかしながら、Suicaは全国で相互利用することができます。札幌でも使えますし、博多でもSuicaは使えます。

Suicaは電子マネーである

Suicaの特徴として、電子マネーとしての側面があります。私は、コンビニでは基本的にSuicaを使って代金を支払っていますし、丸善の書店でもSuicaを使って決済しています。

また、クレジットカードとの連携も進んでいます。有名なところでは「ビックカメラSuicaカード」や「ビュー・スイカカード」が挙げられます。

Suicaは認証システムでもある

Suicaを発行すると、固有のIDが付与されます。つまり、それによって人を識別することができるのです。これを応用すると、オフィスの入退館(カードをかざして入退場)にも使うことができます。

f:id:konosumi:20180513172850j:plain

Suicaのコンセプト

さて、Suicaにはどのようなコンセプトが込められているのでしょうか?

本書では、以下の5つが挙げられています。

  1. サービスアップ
    • パスケースから定期券を出し入れする煩わしさからの解放
    • ICカードによる鉄道各社との共通乗車券の実現
    • 駅構内の売店で買い物ができる
  2. セキュリティアップ
    • カードや乗車券の偽造の防止
    • 不正乗車の防止
  3. システムチェンジ
    • 駅におけるキャッシュレス化とチケットレス化の促進
    • 駅業務の効率化
  4. 駅務機器のコストダウン
    • システム化によるメンテナンスコストの削減
    • 券売機の台数削減やIC専用改札の導入によるコストの削減
  5. 鉄道以外へのビジネスチャンス
    • 内部記憶を持つセキュリティが高いICカードを使った新ビジネスの展開
    • 駅務機器の削減によって生まれる新たなスペースを活用したビジネス展開

Suicaの由来

Suicaは「Super Urban Intelligent CArd」の頭文字をとっています。

また、スイスイ行けるICカードという意味も込められています。

f:id:konosumi:20180513173302j:plain

かざすからタッチ・アンド・ゴーへ。苦労だらけの開発時代

ICカードの開発自体は、なんと1980年代の頃から開発が進められていました。しかしながら、その頃にJR東日本が推し進めたのは、磁気式の自動改札の導入でした。

上記のような背景があり、Suicaはしばらく下積みの時代を過ごします。

その後、Suicaは1994年に第一次フィールド試験を実施します。しかし、結果は散々でした。なんと、磁気式に比べてエラー率20倍という数字を叩き出してしまうのです。

改良型で臨んだ第二次フィールド試験でも、磁気式を超えることは出来ませんでした。しかしこの教訓から「タッチ・アンド・ゴー」という考え方が生まれることになります。

問題は処理時間にありました。ICカードをかざすだけですと、カードの処理に与えられる時間は僅か200msしかないのです。でも、タッチ・アンド・ゴーですと、利用者は一度立ち止まってカードをタッチします。つまり、より多くの時間をカードの処理に割くことができます。

「タッチ・アンド・ゴー」の秘話は、とても面白い話ですので、ぜひ本書で読んでみて欲しいです。

組織横断型プロジェクト

Suicaというプロジェクトは、従来のJR東日本の部門割り組織では、実現することができませんでした。

そこで、内部にSuica専用プロジェクトが結成されます。信号通信部門、財務部門、営業部門などの専門家を集め、1998年には6名体制となりました。

さらに言うと、1997年に結成された段階では僅か2名でした。これはJR東日本という歴史のある組織においては、革新的な出来事です。

少人数のプロジェクトが、大組織をも動かしたのです。だからこその苦労もあったと思いますが、これはとても凄いことだと思います。

自律分散システム

この本には、システムエンジニアから見ても興味深い内容がかかれています。

それが、3層構造による自律分散システムです。3階層とは、具体的に以下のレイヤーの事を指します。

  1. センターサーバー
  2. 駅のサーバー
  3. 端末

それぞれのレイヤーにおいて、各システムは自律的にデータを溜めています。つまり、仮に障害などによってセンターサーバーと通信できなかったとしても、乗車券としてのSuicaは稼働し続けることができるのです。

なぜ、このようなシステムが実現できるかといいますと、ICカード内に既に最低限のデータが入っているからです。それを端末や駅のサーバーにあるプログラムが処理をし、データを読み書きすることで、センターサーバーと通信しなくても処理を完結させることができます。

処理結果は一定量を貯めておくことができるので、一定時間以内に通信なりセンターサーバーが復旧をすれば、何事もなかったかのようにSuicaは稼働を継続することができます。

詳しい内容は、ぜひ本書を読んでみてください。

さいごに

普段から何気なく使っているSuicaですが、そこにはJR東日本という大組織をも変革させた、一大プロジェクトがありました。

そして、そんなプロジェクトでさえも、当初はたったの2名だけのプロジェクトであったというのですから驚きです。研究を進め、改良を進め、経営陣の理解を苦労して勝ち得、ようやく実現へとこぎつけることが出来たのです。

「ペンギンが空を飛んだ日」は、ものづくりとしてのSuicaが凝縮された一気読み必至の新書となっております。

それでは!