こんにちは。本日紹介する「伽藍とバザール」は、オープンソースについての論文を翻訳した書籍です。私は書店にて書籍版を購入したのですが、なんとこの本、オープンソースとしても公開されています。
The Cathedral and the Bazaar: Japanese
esrオープンソース三部作EPUB/Mobi版 by tdtds
オープンソースについて考察した本だから、本そのものもオープンソースとして公開する。何ともワイルドで男気がありますね。さて、それでは感想を綴っていきます。
ソフトは書くけれど、それで儲ける気はない人
世の中には、仕事でソフトを開発している人に加えて、無料でソフトを開発して、公開している人もたくさんいます。
世の中には、フリーソフトがたくさん溢れています。昔はそれらが、個々に細々と公開されているだけでした。しかし、リチャード・マシュー・ストールマンの登場によって、状況は一変します。彼は、ソースコードに目をつけました。
共有、コピー、販売してもかまわない、ただし、誰が貢献したかというクレジットはきちんとしろ。これが彼の作ったGPLというライセンスです。
オープンソースの歴史は、ここから急速に歩みを早めることになります。
フリーソフトはお遊びであり、商売にならないのか?
フリーソフトは昔からありました。しかし、当時はこれはお遊びだと考えられていました。
無料だし、商売にならないし、金も集まらない。みんなそう思っていました。
しかし、単に好き者のお遊びと思われていたフリーソフトが、Linuxというオペレーティング・システムの登場をきっかけにして、状況が一変します。OSという巨大で複雑なシステムを、オープンソースで作り上げてしまったのです。
何故このようなことが起こったのか?・・・本書は、これに対する答えを探る本なのです。
第1章 伽藍とバザール
伽藍方式は、中央集権的な開発です。つまり、オーナーやリーダーが全体の見取り図を書いて、それに合わせてチームメンバーが開発していく方式です。リーダーは絶対的な権限を持ち、舵取りを行います。
一方、バザール方式とは、公開されているソースコードに対して、みんなが勝手に機能追加やバグ取りを行います。一見、混乱を招きそうですが、バザール方式には品質に対する長があるのです。
すなわち、バザール方式ではプロジェクトに関わるメンバーが増えることによって、監視の目が増えるのです。バグがあったり、間違った方向にプロダクトが進もうとしたとしても、たくさんの目によって是正されていきます。
これこそがバザール方式という、オープンソース時代のプロジェクト進行なのです。
第2章 ノウアスフィアの開墾
何故、人は頼まれもせず、お金が一銭ももらえないのに、フリーソフトを書くのでしょうか?
- ギークだから?
- 他の楽しい遊びを知らないから?
- 暇だから?
色々と思い浮かぶことはあるでしょう。
まず、現在は物が飽和している時代です。物質が溢れている社会では、富の配分によるシステムは正常に機能するとは思えません。「富と名声」で言うならば、名声を得ることの喜びのほうが大きくなるのです。
ハッカーたちは、有名になりたいわけではありません。自分のコミュニティで一目を置かれたがっています。彼らは、只の有名人になりたいわけではないのです。彼らは然るべきコミュニティで認められることによって、技術者としての名声を得たいだけなのです。
本書では、それを贈与経済、または贈与の文化と呼んでいます。彼らは、バグの修正や機能追加といったコードをOSSに贈与する見返りとして、名声を得ているのです。
第3章 魔法のおなべ
オープンソースは勢力を増していますが、コードの利用はあくまで無料です。どこでお金が発生して、ビジネスが成り立つのでしょうか?
本書では、コードではなくサービスでビジネスを成り立たせよ、という一例が載っています。まさに、Red Hatのような、サポートによって収益を得る仕組みです。
しかし、世の中には様々な種類のソフトウェアがあって、何もかもがオープンソースに向いているかと言うと、そうでもないと私は考えています。ここは再考の余地がある部分でしょう。
さいごに
「ノウアスフィアの開墾」に登場する、ハッカーの贈与文化を活用したサービスは、何もOSSだけではありません。
海外で有名なStack Overflowでは、様々な技術的な問題に対して、善意のエンジニアが回答を寄せています。日本でも、Qiitaへの技術記事の投稿は一切お金が発生しませんが、それでもたくさんの記事が毎日投稿されています。
Stack OverflowやQiitaは、まさにハッカーの贈与文化を体現化したサービスではないでしょうか?
ハッカーは、お金だけで動くわけではありません。目先のお金だけが目当てなのであれば、OSSよりも商用のソフトウェアを開発した方が分かりやすいのです。
この考え方は、非常に面白いなと思います。かなり興味深い一冊でした。少々読みづらい文章なのが玉に瑕だったりはしますが、解説部分に分かりやすいまとめとしてまとまっているので、読後感は良いです。
書籍版を購入してじっくり読むのも良いですし、インターネット上でも無料で公開されていますので、ぜひどうぞ。

- 作者: E.S.Raymond,山形浩生
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